フィクション:個人番号

この国のすべての人間に番号がつけられている。この制度が始まったとき反対する人も多かったが、あらゆる制度がこのチップの番号がないと利用できなくなっていき、なし崩し的に普及していったのだ。

産婦人科で生まれる赤ちゃんは生まれてすぐにチップを右の手の甲に埋め込まれる。そのチップには番号が入っている。この番号は親から一部を受け継ぐ。また、生まれた土地の番号も含まれる。生年月日も含まれる。さらに、実質重複しないといわれるランダムな値を連結して完成したユニークな番号だ。この番号はDNAと紐づけられ国のデータベースに登録される。生後1日以内に登録する義務があり、多少の罰則もある。

この個人番号を基礎にしてこの国から不正が減った。ごまかすことは難しくなった。収入、支出、税金、保険、学校、駅、会社、あらゆる行動のログが個人番号に紐づけられている。お金が動く取引にはこの個人番号がつけられている。脱税はもはや不可能といってよいし、脱税をする意味も減った。

社会の効率は間違いなく上がったのだ。個人の情報が筒抜けであり、コンピュータがそれを常に解析している。だから、保険もすぐに支払われるし、自己破産も自動的に行われるし、生活保護も自動的に付与される。口座のお金がゼロになることはもはやこの国では発生しない。

いろいろ満たされたはずのこの国だが、治安は多少悪い。右手を切り取られる事件が多発しているのだ。反社会的組織の構成員は、右手を取り換えられるようにしている人が多い。そんな事件を受けて、チップにセキュリティ機能が追加された。チップ周辺の細胞が死んだらそのチップはロックされアクセス不能となる。

それでも事件は続いた。細胞を生かす機能を持った箱にチップを周辺の組織ごと入れて、チップを維持できるようになったのだ。手を改造して、その箱と血管を接続する。すると、血液から必要な成分を抜き出して、また、老廃物を血管に流して、チップ周辺の他人の細胞を維持するのだった。

とはいえ、半年ほどはもつが結局はその細胞組織はダメになってしまう。